Sさんは、ある支援者に20年ほど前、筆談を教えてもらっていた。日常会話として、母とはやりとりが出来る。今後、他の方ともコミュニケーションの手段として筆談を使えるようにと、母が「筆談援助者勉強会」に参加して、七野と出逢った。筆談コミュニケーションとは何か?実際にどうやってするのかを、学ぶだけではないのがこの会の特徴だ。
勉強会では、ハンディのある方の「こだわり」といわれる行動には、意味や意図があると考え、筆談では心のケアをベースに、気持ちのやりとりをする。本当にしたいことや伝えたいことが、周囲に理解されると、ご本人は安心して、したくないまぎらわし行動は収まっていく。また、将来に対して期待を持って希望を伝えてくれる。サポートしてくださっている親を含めスタッフへの、優しいこころ遣いを表現してくれる。このように、筆談というコミュニケーションツールを通して、私達は相手をより理解し、つながれるという経験をする。
Sさんとは、1~2ヵ月に1回の個別セッションを続けてきた。そこで、この数年の三者のやりとりを抜粋して、ブログに載せることにした。その時の情景を思い描きながら、読んでいただけると有り難い。(連載数回シリーズの予定)
筆談は、ほぼ平仮名でおこなわれるが、漢字仮名交じりにて表現する。()内は、母または七野の発言や補足、その時の状況を示す。
Sさんは、普段はA施設(園)に通い、途中からB施設の実習を受けるようになる。それは、重度のハンディ者が仕事をしているテレビ番組をみたのが、きっかけになっている。自分も人の役に立ちたい、何か出来るんではないかとの思いだ。
セッションでは、家族のこと、睡眠のこと、生きるという事について、語られる。
201X年秋 (初めてのセッションで、母との筆談から七野とも筆談・指談が始まる。)
皆さんが優しいので安心しています。寝ることは、ずっと小さいときから 気になる事の一つです。でも今は 薬があるので ちょっとましかなと 思います。
(最近(やまゆり園の事件がテレビ報道された後から)、ドアや門を閉める行動が強く出て、通所している園では、対応に苦慮しているとの事)(七野は、その事件について尋ねることにした)
まずはテレビがずっと そのニュースをしていたので 釘付けでした。
(どんなことを記憶していますか?)
積み木みたいな家が印象にあります。長い積み木の家です(やまゆり園の建物の映像)。
心がズキンズキンしました。とってもとっても怖かった。自分も本当に襲われると思った。
ぼくはお喋りが出来ないから、どうしても分からない人と思われる。
(筆談だけでなく、Sさんの怖い気持ちを手を握ったり、身体を支えたりして共有し、園の門を閉めたくなる気持ちに寄り添う時間を持った)(少し表情がやわらぐ)
ぼくは幸せ者です。チョット楽になりました。
(その後、門には監視カメラがついていることを説明すると、門閉めの行動はピタッととまった。この事は、こだわりと思われている行動には意味あると、園にわかってもらえてるチャンスにはなった。)
201X年冬
こんにちは (セッションの日を)待ってました。いつも ぼくが困っていることを母が言うので、恥ずかしい。七野さんは、どうして喋らないSのこと分かるのですか?
(人として気持ちは同じ、日本社会の中で生きているという事が共通点、などを話す)
ぼくは喋りたいよ。でも 声が出るだけ。 色々(な気持ちが)あるのがSの心です。
晴れもあれば雨の日もあります。台風はあまり来ません。
ぼくにとって筆談は心の支えです。だからしっかり書きたいです。
でも(心が)雨の日は落ち着かなくて、ウロウロしてしまいます。
そうですまったく、言いたいことは沢山あっても ぼくがいろいろこだわるから(片付けや置き場所など)
それを止めさせるのに大変なんだ!していることを止めるのは難しい。
(それは知恵と工夫で止めることが出来ますよ!と七野)
そんなこと出来るの? 知恵と工夫をください。
(したくないのに、思わずしてしまう行動で、自信をなくしたりつらい思いをしている気持ちに寄り添ってもらい、年齢にふさわしい行動をしたいという気持ちを持っていることを、わかってもらえる事で、安心できるようになると、言動は変わってきますよと、七野)
ほんとビビるな ぼくの中に知恵と工夫もあるなんて 考えたことなかった。
202X年冬
いのいちばんに 言いたいことは あけましておめでとうです。今年もよろしくお願いします。
いつも言っていることは やめなさいと言わないで欲しいことです。
もっと色々出来るのに こだわるから出来ないんでしょうと言われると、悲しくなります。
園は暇ですよ。でも 一日の殆どの時間いるので、出来るだけ静かに 落ち着いて過ごしたいと思っています。今回も汗を掻きました。この汗は半分冷や汗です(^0^)。
これからも よろしくお願いします。