ハンディのある人との『筆談コミュニケーション』

自閉症、ダウン症、重度心身障害の人たちの豊かな内面と出会えます

Sさんと母と七野の筆談と心のケアセッションの軌跡 その5

 この時期は、過去の大変だった自分へのねぎらいの言葉かけをすることで、自己承認ができるといいなあと考えセッションをした。そして自分自身の課題(立ち歩いてしまう)が見えてきて、手伝ってもらいながら、本来のありたい自分を目指していこうとしている。

Sさんとの軌跡はその5で、一旦修了。

 

202X.夏(前のセッションをしていたご家族とホワイエの教室で、入れ違いになり、お父さんも参加されているのを見て)

今来てた人は、お父さんもいっしょですか?

(はい、そうです。Sさんもいてもらいたいですか?)

別に、ぼくはとうさんが車で送ってくれるから、休憩しててほしい。

(ここホワイエ教室の中へ来なくてもいいのね?)

大丈夫。お母さんが話した事を後で言ってくれるから、安心です。母と先生が聞いてくれると、安心してお話しが出来る。

(このセッションの少し前に、20年ぶりに痙攣が起きる)

それより、けいれんのことがききたい。

前っていっても、ずいぶん前だから忘れてしまった。心が折れそうになった。あんまり久しぶりで、どうしてけいれんが起こってしまったのか、知りたい。脳みその中に電気がビリビリくるの?

お母さんはなったことがありますか?(ない)

先生はなったことがありますか?(ない)

ぼくは、一分間だと言われても、すごい長い時間だったんだよ。ずっとしんどいっていうか、よくわからない感じで、みえてるのにみえないし、聞こえてるのはなかった。

お母さんは心配したと思うけど、ぼくはとても心配だった。

またけいれんがあっても、心配しなくてもいいって事、少しビックリしたこと教えたかった。

ぼくは薬を飲んでいたから、少しのけいれんで終わったのかなあ。まさしくお久しぶりのけいれんは困ったなあ。

さようなら けいれん。

(けいれんの後)テンション高いって言われたけど、確か自分でも変な感じで止められないんです。職員さんが知ってくれてるのかなあ。

 

(筆談の文章が途中で、立ち上がろうとする。たびたびあるので、止められる時は止めながら、)

お母さんは言いたいこと言っていいと言うけど、いつも言うことが出来ないから、やっぱり最後まで言う(筆談で書く)なんて、めちゃ勇気のいること、だって逃げたくなるんです。(Sさんは、話し(筆談指談)半分位で立ち上がろうとすることが多く見られる。落ち着きがないというより、何か理由があると考えていた。その答えの一つを教えてもらった)

まず、自分の意見が通ると思ったことがない。七野先生は、すごく気持ちのことを聞いてくれるけど、(職員さんは)だいたい我慢してねっとか、怒らんといてねっとか言う。

ぼくだっていろんな気持ちになるし、決められたことだけじゃなくて、言い方がわからないけど、どうしようか迷っている時もある。

いろんな気持ちがあっても、ことばでは伝えられないし、声はあんまり変えられない、自信がないです。

(自信は体験したらつくよ。声は出る出ないは、自信とは別。)

ほんと?!

今はSがしゃべりたいことは、いろいろしてごめん。いろいろするとイヤになってしまう。いろいろしたら、とめてほしい。

 

202X.秋

みんなのこと、大切に思っているので、ぼくとしては、大人のふるまいをしたいと思っているのです。この前、船(足こぎボート体験)の時も、がんばって漕いだのに、「頑張って漕ぎや」と言われてイヤだった。

お母さんといると安心だけど、ほかの人といるといろいろ心配する(ので、いろんなことしてしまって) おこられる。

(、極め付けのような書き方に、ぼくって怒られる存在と決めたのはいつ?)

学校行ってから、高等部は大嫌い。

(何歳ですか?)

四十X(歳・現在の年齢)

(高等部は何歳?)

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(では、高等部のSに なんと言ってあげる?)(七野は過去の自分への思い込みを変化してもらいたいと考えて、提案した)

S坊主、おまえはよく頑張った。うるさく言われても、辛抱したね(ため息)

Sは本当は なんでもわかっているのに 言葉がないと、わからんやつと思われてたね。

ぼくSおじさんは、高等部のSを応援するよ。

いつも一生懸命なSが好きだよ。どうか自分のことだめな子とは、思わないで。Sは大丈夫、大丈夫。おじさんになっても、幸せにくらしているからね

おしまい

(過去の自分に語りかけるという、心理療法が本人の勇気づけや意識の変換に寄与したと思う)

H先生(高校の時の担任)は優しかった。本当は、ぼくはH先生が好きだった。

お母さんのように、誰がなんと言おうとも ぼくの味方をしてくれました。優しい先生でした。だから高等部は、我慢して行きました。

ぼくがぼくをよしよしするって、どういうことですか? 怒られた時、大丈夫って思うこと?(七野の提案に真摯に応えて下さった後で、確かめしたかったのかもしれません)

 

(家に帰ってから、母と筆談)

今日は、七野先生とお話しして、うれしかった。

ぼくが今まで、頑張ってきたことを 褒めてもらえた。(ご自身が、高等部だった自分をねぎらったといえる)

 

202X.遅い秋

ずっと薬のことが気になっていました。この頃よく寝られてうれしい。朝起きるのはすっきり。

(園は)のんびり過ぎて したいことが浮かばないです。仕事が少ない。いつも仕事の時は、うれしいです。今日は少しだけと言われると、Sがちゃんと出来ないから、仕事少ないのかなあと思うんです。 仕事上手く出来ないから。(そういうことではないよ。)

(Bへ実習に行って)

そうですよ。Bは仕事でした。おみやげ付き!!

『お土産は 仕事のうれしさ。』(このことばは、後にB事業所のKさんが感動して聞いてくれたとのこと)

B(事業所)へは、いつ行ってもいいんですか?ずっと行けたら、お仕事が出来るSになるかな。ぼくはやっぱり、いかした男性になりたいんです。

(園の担当の)Iさんは、やさしいけど (立ち上がってしまうので)Sがしたくないんだとすぐ言うんです。本当はやりたいけど、ホントにやりたいんですよ。

 

(じっと、座ってる練習しましょうと提案。3分間計るから、そう言うと自分から自己紹介をはじめる)

こんにちは、ぼくの名前はSと言います。○○という所に住んでいます。ぼくの家族は、お父さんとお母さんとぼくの三人です。たまに一緒に、旅行に行きます。それは、ぼくが別の所でも寝れるように練習します。

(3分修了)

まったく、S仕事がしたいのに、なぜか立ち歩いてしまうから、仕事嫌いなんかなあと思われていて、悔しいです。書かせてくれてありがとうございます。

お母さんはぼくの事よくわかってるけど、園には行けないから、Iさんに頑張ってもらいたい。

(Bの事業所長)Tさんは園にはいない。

だから毎日仕事したいと思っているんですよって、伝わったらいい。

ぼくは立ち上がってしまう癖があるけど、ホントはちゃんとしたいって、誰よりも思ってるんです。これが本当の事です。真面目にやりたい気持ちがいっぱいあるから、どうぞお願いします。

 

(歯科検診に行って)

歯医者さんは、ぼくが起きると待ってくれるのでうれしいです。

虫歯になるとイヤだから頑張る。ずっと行っている歯医者さんだから、安心です。

 

202x.冬

Bに行って仕事していました。よかった。

(Bの仕事は?) 

袋にいれる、あつめる。職員さんは優しいから、手伝ってくれるし、ぼくが少し頑張ってしようとすると、褒めてくれるのでやる気が出ます。ぼくはやはり仕事が好きです。

疲れたのは、もちろん疲れました。それでもやりがいがあると思います。

ただし、(立ち)歩いてしまうことは、何度もあるので、ちょっとSも困っている。

仕事は楽しいけど、難しい時もある。

(毎日B行くのはどう?)

行きたい。

 

(この一年を振り返って)

コロナのことがあって、いろいろ大変だったけど、家族が元気で過ごせてよかったです。

そしてぼくは、仕事という大切な事に気づいたので、とても充実した一年でした。

(後日談、好ご期待)